大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成8年(オ)1049号 判決

上告人

株式会社ベスト電器

右代表者代表取締役

北田葆光

右訴訟代理人弁護士

藤金幸

藤民子

被上告人

中山商事株式会社

右代表者代表取締役

北村千昭

右訴訟代理人弁護士

望月一虎

阪口春男

今川忠

岩井泉

原戸稲男

原戸稲男

佐藤義幸

森脇和弘

阪口裕康

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤金幸、同藤民子の上告理由第一点について

一  本件は、被上告人が、株式会社カツラ(以下「カツラ」という。)との間で締結した債権譲渡予約を完結してカツラの上告人に対する債権を譲り受けたとして、上告人に対し、右債権の履行を求める訴訟である。

原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  カツラは、被上告人から寝装品の材料である原綿等を継続的に仕入れ、昭和六〇年代には、被上告人に対し、常時八〇〇〇万円ないし一億円の買掛債務を負っていた。

2  カツラは平成三年ころから資金繰りに困難が生じるようになったが、被上告人は、カツラの依頼により、三億円程度の融資をしたり、債務の支払を猶予するなどしたほか、カツラの代わりに原材料を仕入れたり、手形を割り引いてやったりして、その資金繰りに協力していた。

3  被上告人は、平成四年九月当時、既にカツラ所有の不動産に根抵当権の設定を受けていたが、右不動産には先順位の根抵当権が設定されていたこともあって、以後も引き続きカツラへの援助を続けていくためには、カツラから更に担保の提供を受けることが必要と考えた。そこで、被上告人は、カツラと協議した結果、同月一日、カツラとの間で、被上告人のカツラに対する現在及び将来の債権を担保するため、次の内容の債権譲渡予約(以下「本件予約」という。)を締結した。

(一)  譲渡人 カツラ

(二)  譲受人 被上告人

(三)  第三債務者 上告人外一〇社

(四)  譲渡債権 カツラがこたつ、羊毛・羽毛ふとん、暖卓台及びこれらのセット等の売買取引に基づき第三債務者に対して現に有し又は将来有することのある一切の商品売掛代金債権

(五)  カツラが被上告人に対する債務の弁済を遅滞し、支払停止に陥り、又はその他不信用な事実があったときは、カツラは被上告人に対する債務について期限の利益を失い、被上告人は、直ちに債権譲渡の予約を完結し、債権の取立て等を実行することができる。

4  カツラは、平成五年一一月四日、被上告人に、経営の改善の見通しが立たないので廃業する旨連絡した。被上告人は、同月五日、カツラに対し、本件予約の完結の意思表示をし、カツラに対する債権額の限度内で、カツラからあらかじめ預託を受けていたカツラの記名印及び代表者印の押なつ済みの債権譲渡通知書に日付、譲渡債権の額等を捕充した上、上告人を含む一一社に右通知書を発送し、右通知書は、翌六日ころ、右一一社に到達した。

二  上告人は、本件予約は、譲渡の目的となる債権が特定されておらず、また、カツラに対する他の債権者との均衡を害するばかりでなく、カツラの利益を損なう著しく不公平な内容のものであって、公序良俗に反し無効であるなどと主張する。

しかしながら、上告人の右主張は、次のとおり理由がない。

1  まず、債権譲渡の予約にあっては、予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる。そして、この理は、将来発生すべき債権が譲渡予約の目的とされている場合でも変わるものではない。本件予約において譲渡の目的となるべき債権は、債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。

2  次に、本件予約によって担保される債権の額は将来増減するものであるが、予約完結の意思表示がされた時点で確定するものであるから、右債権の額が本件予約を締結した時点で確定していないからといって、本件予約の効力が左右されるものではない。

3  また、前記のような本件予約の締結に至る経緯に照らすと、被上告人がカツラの窮状に乗じて本件予約を締結させ、抜け駆け的に自己の債権の保全を図ったなどということはできない。さらに、本件予約においては、カツラに被上告人に対する債務の不履行等の事由が生じたときに、被上告人が予約完結の意思表示をして、カツラがその時に第三債務者である上告人らに対して有する売掛代金債権を譲り受けることができるとするものであって、右完結の意思表示がされるまでは、カツラは、本件予約の目的となる債権を自ら取り立てたり、これを処分したりすることができ、カツラの債権者もこれを差し押さえることができるのであるから、本件予約が、カツラの経営を過度に拘束し、あるいは他の債権者を不当に害するなどとはいえず、本件予約は、公序良俗に反するものではない。

以上によると、本件予約が有効であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官亀山継夫 裁判官河合伸一 裁判官福田博 裁判官北川弘治 裁判官梶谷玄)

上告代理人藤金幸、同藤民子の上告理由

原判決には以下に述べるとおり、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。又、審理不尽、理由不備、理由齟齬の違法がある。

第一点 原判決は、債権法理、担保法理、民法第九〇条の解釈を誤った違法があり、判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、原判決はその理由三2において、「訴外株式会社カツラ(以下「カツラ」という。)の取引先一一社のうちから、将来被上告人が対象取引先(第三債務者)を自由に選択し、その債権額も被上告人において適宜選択する将来債権で、その選択決定権利行使の終期も定められていないもの」を特定の債権と断じ、これを有効に担保の目的としうるとし、その理由として、「第三債務者は、カツラの取引先である約一〇〇社のうちの一一社として具体的に特定されている。債権の発生原因は、コタツ、羊毛、羽毛ふとん、暖卓台及びこれらのセット等の売買取引に基づく商品売掛代金債権とされて特定されているといえる。」又、「債権額は変動するが、将来被上告人により債権譲渡通知の発せられた時点におけるカツラの第三債務者に対する債権残額が限度額であるから、限定がなされていないものとまでみることはできない」と判示するが、右は、集合動産を譲渡担保の目的とすると同等の理論で、債権担保をも規律しようとするもので、不当である。

債権は人的関係を中心に個別化、特定化されるのであり、しかる特定の後に物権に比類する独立性、客観性を得て人的関係を離れた財産権として担保等の目的となりうる。集合として担保の目的たりうるかは二次的問題である。物権たる動産がその発生当初から独立性客観性を有し、特定性は集合担保として他から識別されるかどうかを基準としてこれを考えればよいのとは全く趣を異にするはずである。

二、将来発生する債権を担保の目的とするには、特定の債権でなければならない。これは債権法理上当然の理である。そして、債権が特定といえるためには、債権が誰の債務として発生するかの特定、すなわち第三債務者の特定が不可欠であり、その他債権の発生原因、時期、金額等が債権の特定に資する要件となるのである。

すなわち、債権を集合として担保目的とするには、集合を構成する個々の債権が特定債権でなければならないのであり、一一社全体が集合として他取引先と区別されているというだけでは、個々の債権の第三債務者の特定に資するところとならない。債権が一一社のうちの誰人の債務として発生するかが確定していなければ、不特定の債権である。

又、一一社のうちの誰人が第三債務者であるかの特定がない限り、第三債務者に対する債権残額も特定されておらず、結局限度額あるいは限定もない事に帰するはずである。

仮にこの点を譲っても、電気器具等の販売業者である上告人にとって寝具製造販売業者であるカツラ(甲第七号証)との取引は、常時ではなく一年のうちの冬期に限ってコタツふとんについてなすにとどまり、それも上告人にとってかような取引先はカツラのみである必然性はないのだから、カツラ、上告人間で債権発生原因が確定しているとはいえず、上告人のもとで「コタツ、羊毛、羽毛ふとん、暖卓台及びこれらのセット等の売買取引に基づく一切の商品売掛債権」が、発生する事は確実に予測しうるものではない(証人北淳二郎尋問調書三丁及び一三丁。シーズン後にはカツラへ在庫を返品し、その後はカツラが上告人に債務を負うと証言する。)。

又、上告人に発生すべき売掛金の始期も終期も契約時には確定されていないのであるから、「現在既に債権発生の原因が確定し、その発生を確実に予測しうるものに限って、始期と終期を確定する事を要件として」将来債権の譲渡を認めた判例(最高裁第二小法廷昭53.12.15判決、昭51(オ)四三五号)、(最高裁第二小法廷昭63.4.8判決、昭62(オ)八四七号)の基準にしたがっても、到底本件将来債権を担保の目的とは致しがたいものである。

三、原判決は、担保としての本債権譲渡予約契約を民法第九〇条により無効とした第一審判決を退けて、「商品売買、委託加工金銭貸借、手形行為、保証、債権譲渡及び債務引受等の諸取引並にその他の行為又は事実によりカツラが被上告人に対し、現在既に負担し又は将来負担することのある一切の債務」を被担保債権として、譲渡の目的とされるべき債権の債務者を特定することなく、目的債権の発生時期についても、限度額についても、権利行使手続、権利行使期間についても、何ら限定を伴わない包括的な将来の債権を目的債権とし、かつ何ら担保として公示手段をとらない本件譲渡予約を有効とするのであるが、右は債権法理、及び担保法理の解釈を誤り、法が債権、及び担保権に付した制限により人の経済活動の自由を尊重し、取引の良由、安全の秩序を守ろうとした意図を無にするもので不当である。

四、債権は、債務者の一般財産を引き当てにするもので、一般財産については原則的に優先権を持ち得ない。いわゆる債権者平等原則がある。これは、「公示の原則のない債権の効力をその成立の時の前後によって区別し、あるいは債権者間に法律上当然優先的地位を与えられる特権者を認めることは、自由競争を主眼とする債権取引の安全を害するだけでなく、特定の財産について質権又は抵当権などによって優先的地位を取得した者を脅かすことになり、近代取引の要請に反する(我妻榮著新訂担保物権法(民法講議Ⅲ)[二])からであるといわれる。

一方、担保権は、特定された財産権に公示方法を付することで、公示される限度で特定財産に優先権を認め、債権者平等原則との調和を図ったものであるが、その場合でも債務者及びその他の債権者の経済的自由が不当に拘束されないように種々制度的な配慮がなされているのである。

債権は人の経済活動を媒介として価値を無限に拡大しうるのであるから、無限定の被担保債権と無限定の担保目的債権の組合わされたかかる無限定の担保を有効とするのは、結局一般財産に対し、無限に優先権を認めたのと同じ結果を招来し、債権者平等を害する。かような債権担保の担保設定者たる債務者は、その経済活動の終えんまで心理的に、支配拘束されて担保価値を増幅させられることにもなる一方、被上告人は結局その望むときに望むだけでの自己の債権の優先弁済をはかり得ることとなり、この意味では被上告人は正規の手続をとった物的担保権者よりもさらに優位の立場に立つことになる(民法第三九八条ノ二乃至二二)。

このような無限定な債権譲渡予約契約の存在自体、人の経済活動の自由を束縛するもので、まさしく、法の正義に反するもので公序良俗に反する。

本件被上告人について、特にこのような無限定かつ公示を欠く担保を認めなければ金融の途が拓けないという事情もなく、現に被上告人は、カツラについですべての物権(乙第二一号証乃至三九号証)について根抵当権をも有し、本件譲渡予約担保設定後も物権担保からの弁済を受けているのである(中山宏本人尋問調書六丁、九丁、乙第二八号証乃至三六号証)。

ひっきょう、被上告人は何ら合理的理由もなく、自己の債権の独占的満足を得るためにカツラの特定財産、及び一般財産をすべて支配拘束していたに帰する。これを無効とするに何の妨げもない。

原判決は、その理由三(二)(2)②において譲渡対象債権が限定されているとの誤った判断をもとに、「被上告人が予約完結権行使までは、他の債権者が被上告人に優先することもあるから、他の債権者を害することにはならない」あるいは、「担保としての公示方法がなかったが、予めこのことを第三債務者に通知すれば、カツラの信用不安を来たし、カツラの営業に打撃を与えることは必至であって、被上告人及びカツラにこれを要求することは困難であり、公示方法を伴わないからといって本件担保の効力を否定することは出来ない」と説示するが、自己が優先しないとの不利益を受ける可能性があったとして、それで債権者平等が害されないとは言えないし、その他者の優先を甘受せざるを得ないのは債権譲渡予約が予約であったがためであり、それが無限定のせいではないのだから論旨は妥当を欠く。

又、公示方法をとらなかった者に、仮に判示のごとく主観的な合理的理由があったとしても、法秩序が要求する公示方法を不用とするのは、到底得心しかねる論理である。

本件譲渡予約を有効としたのでは、法の予定した経済秩序は到底保たれなく、法の正義に反するのであるから、これを公序良俗に反しないとした原判決は判断の違法があり、破棄を免れない。

第二点 <以下省略>

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